コラム

2020.11.11

リ・スペクト

メンバーが組織への「エンゲージメント(思い入れ)」を高めるにはどうしたらいいのか。
組織を率いる身であれば、常に頭をよぎる問いだと思います。
何も会社のことだけではありません。
町内会、スポーツサークル、学校の父母会など、どんな集団であれ、自分がその長となれば、その集団に属する人たちの「集団への思い入れ」をどう高めようかと、頭を巡らすでしょう。

ハーバード・ビジネス・レビュー誌と組織コンサルタントのトニー・シュワルツ氏が世界中の企業人20,000人を対象に実施した調査に、エンゲージメントを高めるためのヒントを見つけることができます。
この調査によると、メンバーにとっては、リーダーがメンバーを「正しく評価すること」よりも、「刺激的なビジョンを伝えること」よりも、さらには、「学習/成長/開発の機会を与えること」よりも、「敬意を持って接すること」こそが「重要」であった、と記載されています。
数値で見ると、リーダーから敬意を払われているメンバーは、そうでないメンバーよりも、55%の差を持って組織に対するエンゲージメントが高かったのです。
補足的な情報ですが、敬意を払われているメンバーは、56%が「身体的、精神的、社会的により健康」だと回答し、89%が仕事に対してより「愉しみ (enjoyment)」や「満足 (satisfaction)」を感じ、92%がより高い仕事における焦点の絞り込みができているという結果でした。(※1)

さて、「敬意を払う」は、英語では「(respect)リスペクト」です。
「respect」の語源は、「re(再び)」「spect(見る)」。
つまり、軽くちらっと見て終わりではなく、もう一度、しっかり見る。
「関心をもってその対象に目を向ける」というのが、敬意を払うということの元々の意味となります。
一方、「respect」の反意語は、「disrespect」。
「dis」は否定の接頭語ですから、要するに「しっかり相手を見ない」。
ちらっと一瞥して終わり、ということでしょうか。
「見ない」ということが、まさに「敬意を払わない」ということであり、その行為はメンバーの組織への「思い入れ」を下げることにつながるわけです。
一方メンバーは、関心を持ってしっかり自分のことを見てほしいと、思っている。

歴史的な「ワールドカップ3勝」を挙げたラグビー日本代表。
私自身が中学の時から30年に渡ってラグビーをプレーしたこともあり、ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏がいかにチームを指導するかには以前から関心がありました。
彼もまた、「リスペクト」という概念をチーム強化のために取り入れています。
『コーチングとは「信じること」〜ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話〜』の中で、エディー氏は次のように述べています。
「ひとりの選手がラインブレイクしたときに懸命に走るのもリスペクトのひとつの形です。突破した選手を孤立させてはいけない」(※2)
ラインブレイクとは、相手のディフェンス網を突破すること。
突破すると、通常、その瞬間、突破した選手と他の味方選手の間にわずかな距離が生れます。
その距離によって突破した選手が孤立してしまっては、再び敵に囲まれボールを奪われてしまいます。
そうした場面で突破した選手の努力を無駄にせず、周りが懸命に走ってサポートする。
それがリスペクトであると。
仲間の選手が突破する瞬間をしっかり見ていて、追いかける。
動きの激しいラグビーでは、疲れてくると、ややもすると仲間の動きを漫然と見てしまいがちになります。
そこで、どんなに疲労していてもしっかり意識して目でとらえる。
それが仲間へのリスペクトなのだ、と。
リスペクトという概念を具体的なプレーの中に落とし込むことを通して、エディー氏は「思い入れ」に溢れたチームを作り上げました。

先ほどのハーバード・ビジネス・レビューのリサーチに戻れば、54%の社員は、「上司から定期的に敬意を払われていないと感じる」と応えています。
なんと、半分以上です。
では、なぜ上司は、敬意を示さないのか。
不作法に振舞うのか。
60%以上が「自分はいっぱいいっぱいでナイス(親切)である時間などない」と回答していいます。
しかしラグビー日本代表が目指したように、疲れているときこそ、周囲へのリスペクトは問われるのです。
多忙の時にメンバーに対して関心の眼差しを向けてこそ、本物のリスペクトです。

エグゼグティブ・コーチングで、私たちはたびたびクライアントに問いかけます。
「あなたは毎日どのように社員への敬意を示していますか?」
この問いについてクライアントの方々に考えを巡らしていただくことが、会社へのエンゲージメントを高めることに繋がると思うからです。

【参考資料】
※1
Christine Porath,Half of Employees Don't Feel Respected by Their Bosses
Harvard Business School Publishing

※2
『コーチングとは「信じること」〜ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話〜』
(文藝春秋) 生島淳

Hello, Coaching! より許可を得て転載)

関連コンテンツ

デザイン思考とコーチングの共通点

先日、ヤマハ発動機執行役員デザイン本部本部長の長屋明浩さんと、NewsPicksのイベントで対談させていただきました。…

記事を読む

能力開発を脇に置く

社会心理学という学問があります。この世界では、運命の主人は「人」ではなく、「環境」。その社会心理学の大家で、ハーバード大学のエレン・ランガー教授は…

記事を読む

お月さま2つ分を歩くまでは

企業トップから頻繁に課題として伺うのが「部門のサイロ化」という問題です。事業部をマネジメントする人間が自部門のことしか考えない。それは強い責任感の表れではあるが…

記事を読む